概要
トラフィックモードは、スペースに出入りする人数をカウントすることで、在室人数を推定します。
在室人数 = 累積 IN − 累積 OUT
この手法は拡張性が高く、入口、フロア、広いスペース全体での人の動きや利用傾向を把握するのに効果的です。
在室人数は直接測定するのではなく移動イベントから算出されるため、ドリフトと呼ばれる統計的に自然な挙動が生じます。
この記事では、次の内容を説明します。
- トラフィックベースの在室人数の仕組み
- ドリフトとは何か、なぜ発生するのか
- トラフィック精度と在室人数の精度が異なる指標である理由
- キャリブレーションによって在室人数の信頼性を保つ仕組みと、キャリブレーションではできないこと
データの鮮度と確認できる場所については、「トラフィックモードのデータはどれくらいリアルタイムですか?」をご覧ください。
👉 システム全体の中での位置付けについては、「Butlr でセンサーの設定がデータを決める仕組み」をご覧ください。
1. トラフィックベースの在室人数の仕組み(概念モデル)
トラフィックセンサーは、入口で人の動きをその方向とともに検知します。
- IN → 人が入る
- OUT → 人が出る
在室人数は、これらのイベントを時間の経過とともに累積して算出されます。
これにより、次のことが可能になります。
- 人の流れ(トラフィックフロー)の分析
- 入退室のモニタリング
- 大規模な在室人数の推定
2. ドリフトとは
ドリフトとは、次の 2 つの間に時間の経過とともに蓄積しうる差のことです。
- (トラフィックから)推定された在室人数
- スペース内の実際の在室人数
ドリフトは、トラフィックベースの在室人数が累積値であるために発生します。小さなカウントのばらつき(例:イベントの検知漏れや余分なイベント)であっても、1 日を通じて残り続け、蓄積することがあります。
簡単な例
この挙動は、移動イベントから在室人数を推定するあらゆるシステムで想定されるものです。
3. ドリフトが発生する理由
ドリフトは、現実の人の動きとイベントのカウントとの相互作用によって生じます。主な要因は次のとおりです。
- カウントのばらつき(100% 完璧なシステムは存在しない)
- 累積計算(誤差が持ち越される)
- 人の動きのパターン(例:行き来の多い通行、グループでの移動)
その結果、日中に在室人数が徐々にずれたり、一時的に実際の在室人数より多く、または少なく推定されたりすることがあります。
👉 トラフィック精度が高くても、在室人数は時間の経過に伴うイベントの累積に依存するため、ドリフトが発生することがあります。
4. トラフィック精度 ≠ 在室人数の精度となる理由
トラフィックの仕様では、次の 2 つを区別しています。
- トラフィック精度:IN/OUT イベントをどれだけ正確に検知できるか
- 在室人数の精度:累積による推定値が、時間を通じて実際の在室人数にどれだけ近いか
この 2 つは連動しません。在室人数の精度は、スペース内で人が実際にどのように動くかに大きく左右されるため、IN/OUT の精度が高くても、在室人数の精度が高いとは限りません。IN/OUT の精度がほぼ同じ 2 つのシステムでも、在室人数の挙動は大きく異なることがあります。
そのため、エンジニアリング検証やお客様による評価では、IN/OUT のトラフィック精度を指標とすることを推奨しております。トラフィック精度は目標が明確で再現しやすく、入口単位のセンサー性能を直接測定できます。一方、在室人数の精度は一貫性が低く、エッジケース、サンプルサイズ、ドリフト、トラフィックセンサーの台数に大きく左右されるため、センサーの性能よりもトラフィックのパターンをより強く反映する指標です。
下の表の見方
両極端の 2 つのケースを比べてみてください。Scenario 1 では、IN/OUT の精度がほぼ完璧(99.2%)でも、在室人数の精度は 47% にとどまります。通行量が非常に少なく、1 件の検知漏れでも割合が大きく変動するためです。Scenario 4 では、IN/OUT の精度ははるかに低いものの、在室人数の精度は 92% に達します。一貫した方向の偏りが、増え続ける人数の中に吸収されるためです。同じセンサー精度でも、在室人数の結果は正反対になります。結果を左右するのは精度ではなく、トラフィックのパターンです。
トラフィック精度と在室人数の精度のこの差を縮めるのが、まさにキャリブレーションの役割です。Butlr がこの差をどのように縮めるのか、またセンサーの品質にかかわらず一定の残差が残る理由については、セクション 5 をご覧ください。
5. Butlr が在室人数の信頼性を保つ仕組み
Butlr は、既知の基準点でトラフィックベースの在室人数を実際の状況に合わせて再調整するキャリブレーションシステムを適用しています。これにより、1 日を通じたドリフトが軽減され、在室人数を解釈しやすい状態に保てます。
補正は 2 段階で行われます。
継続的な補正
ライブの値を含め、すべての値に適用されます。
- 在室人数は 0 を下限とするため、負の値になることはありません。
- 値は人単位の整数に丸められます。
この補正はリアルタイムで実行され、基準点を必要としません。
既知のアンカー時点での補正
アンカーとは、実際の人数がわかっている時点のことです。アンカーがあることで、蓄積した誤差を測定し、補正できます。
| アンカー | 動作内容 | 適用対象 |
|---|---|---|
| 日の区切り | 営業日の開始時に在室人数をリセットし、その日が終了した時点で、蓄積した誤差をその日の推移全体にさかのぼって補正します。 | すべてのスペース |
| PIR Zeroing | スペースが空になったことを検知し、日中に 0 へ補正します。 | PIR センサーを備えた Room レベルのスペース |
スペースが空になるまで基準点が存在しないため、1 日の終了時の補正をその日の終了より前に実行することはできません。
部屋に人が一時的に静止しているだけではなく本当に空であることを確認するには、設計上一定の時間がかかるため、PIR Zeroing には空室確認の待機時間があります。この待機時間はスペースごとに設定でき、推奨のデフォルト値は 300 秒です。
キャリブレーションでできること、できないこと
キャリブレーションは、アンカーの時点で在室人数を補正します。アンカーとアンカーの間ではカウントのばらつきが累積しうるため、次のアンカーまでの間は、実際の在室人数と異なる値になることがあります。
この残差は、IN/OUT イベントの累積から在室人数を推定する方法であれば、どのような場合にも生じる性質のものです。Butlr に特有のものではなく、センサーの故障を示すものでもありません。キャリブレーションは差を縮め、アンカーごとにゼロに戻しますが、基礎となる計算方法そのものを変えるわけではありません。アンカーの頻度が高いほど残差は小さく保たれます。そのため、PIR Zeroing を設定したスペースでは、1 日を通じて実際の在室人数により近い値が得られます。
特定の部屋や Zone について、刻々と変わる正確な在室人数が必要な場合は、プレゼンスモードのほうが適しています。プレゼンスモードは、人の動きから累積するのではなく、在室人数を直接測定するためです(セクション 6 を参照)。
処理パイプライン
トラフィックデータは、次の処理を経て、利用可能な在室データになります。
- イベントの集約
- キャリブレーションによるフィルタリング
- ドリフト補正
- 補間 + クリーンアップ
- 時間単位の集計
6. トラフィックモードを使用する場面
トラフィックモードは、次の用途に最適です。
- 入口や出入口
- フロアまたはビル単位のインサイト
- 人の流れや利用パターンの把握
プレゼンスモードは、次の用途に適しています。
- 部屋や Zone のリアルタイムの在室状況
- 位置に基づくインサイト(座標)
👉 どちらのモードも同じ Heatic ハードウェアで動作し、組み合わせることでより充実したインサイトが得られます。
7. 重要なポイント
- トラフィックモードは、IN/OUT の動きから在室人数を推定します。
- ドリフトは、イベントの累積に基づく推定で自然に生じる結果であり、この方式で構築されたあらゆるシステムで発生します。
- キャリブレーションはドリフトを軽減しますが、完全になくすことはできません。アンカー間で一定の残差が生じることが想定されます。
- 在室人数の挙動はセンサーの精度だけでなく人の動きのパターンにも左右されるため、評価には IN/OUT の精度が適した指標です。
- PIR Zeroing のようにアンカーの頻度を高めると、トラフィックベースの在室人数を 1 日を通じて実際の値に近く保てます。
- 部屋や Zone の正確なリアルタイムの在室状況が必要な場合は、プレゼンスモードをご利用ください。
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